日本、中国、韓国の3カ国が投資協定を結ぶ交渉に入る。中国での現地生産に力を入れる日韓両国が透明な投資ルールづくりを求め、これまで慎重だった中国も歩み寄った。
安倍首相の訪中で、小泉前首相の時代に冷え切った日中関係が改善に向かったことが呼び水となった。
中国は豊富な労働力を持つうえ、世界最大の市場としての魅力もある。技術力や資金力で優位に立つ日本からの投資が拡大すれば、貿易のパイプもさらに太くなるだろう。韓国も日本と同じ立場だ。3カ国が互いに利益を享受する経済関係への一歩として評価したい。
すでに日韓には投資協定があり、日中でも大ざっぱな取り決めはある。だが、中国では外資規制が色濃く残り、進出した日本企業は不満を募らせていた。
例えば、自動車メーカーが中国で現地法人を作ろうとすれば、中国資本との合弁が義務づけられる。しかも株式の過半数を握ることは認められない。
投資の認可基準はあいまいで、中国政府が税制や会計制度を急に変えてしまうことがある。せっかく進出を決めたのに予定地の利用が制限され、新たな用地探しを迫られるケースまで出ている。
日韓両国は、現地法人を設立する際に中国の国内企業と同じ待遇が受けられるよう求める構えだ。
もう一つ、緊急度の高いテーマがある。日本製の車や電気製品の模造品を締め出すルールの拡充だ。中国も知的財産を守る法制度は整えつつあるが、取り締まりは手ぬるい。
「海賊版」CDやニセのブランド品も含め、中国で横行する知的財産の侵害には欧米も頭を抱えている。日本企業の被害は9兆円を超えるとの推計もある。
世界貿易機関(WTO)を通じて改善を促すやり方もあるが、日本は政府と進出企業が協力して、中国側に本物と模造品を判別するノウハウを教えるなど地道な取り組みを重ねてきた。こうした実績も踏まえて、摘発や処罰の強化を求めるのは当然のことだ。
投資を自由にすれば、進出先の国内産業が打撃を受けるだけではない。土地所有から税金に至るまで広い範囲に影響が及ぶ。このため途上国が拒否反応を示しがちで、中国も例外でない。
しかし、今回の交渉は3国にとって懸案になっている自由貿易協定(FTA)の中から、投資分野を先行させたものだ。東アジア全体に自由貿易の波を広げたいのなら、経済規模や貿易額で圧倒する日中韓が先導役を務めなければならない。世界の他の地域に比べると出遅れが目立つだけに、交渉を急ぎたい。
日本は中国とのFTAには及び腰で、韓国とのFTA交渉の中断も2年を超えた。農産物市場の開放をためらってきたためだ。このままでは、投資協定が日本の思惑通りに実現しても、その先にあるFTA交渉では厳しく攻められる側に回ることを覚悟しなければならない。